認知症の症状への向き合い方|
「本人にとって理由のある行動」として考える
そういう日が続くと、どう接したらいいのか、分からなくなります。本で読んだとおりにやってみても、うまくいかない。優しくしようと思っていたのに、つい声を荒らげてしまって、そのあと自分を責める。
この記事は、そういう時期にいるご家族に向けて書いています。在宅で介護されている方も、すでに施設に入居されていて面会のたびに戸惑っている方も、どちらも読者として想定しました。
先に、この記事の姿勢をひとつだけ書いておきます。ここでは「問題行動」「困った行動」という言い方をしません。それは介護の分野で、もう使われなくなってきた言葉だからです。代わりに、「本人にとっては理由のある行動」として考えます。理由が分かれば必ず解決する、という単純な話ではありません。それでも、見え方が変わるだけで、少し楽になることがあります。
この記事で、医学的な診断や判断はいっさいしていません。「これは認知症です」「この病気の型です」といったことを、文章から読み取らないでください。似た症状が出る、まったく別の原因もあります。気になる様子があれば、かかりつけの医師、もの忘れ外来などの医療機関、お住まいの地域包括支援センターにご相談ください。
症状の進み方は、人によって大きく違います。「何年でこうなる」といった見通しは、この記事では書きません。書けないからです。
薬について、この記事で具体的な判断はしません。「この薬が効く」「この薬をやめたほうがいい」といったことは、必ず処方している医師にご相談ください。飲んでいる薬が体調や様子に影響していることもありますが、家族の判断で中止したり量を変えたりすることは、絶対に避けてください。
特定の家庭の事例は、実在のものも、たとえ話として作ったものも、いっさい書いていません。「Aさん(80代)の場合は……」といった架空のケースは、この記事には一切登場しません。
① 認知症とは、病名ではなく「状態」を指す言葉です
最初に、言葉の整理をさせてください。ここが分かっていると、あとの話が理解しやすくなります。
「認知症」は、ひとつの病気の名前ではありません。いろいろな原因によって脳の働きに変化が起き、それによって日常生活に支障が出ている「状態」を指す言葉として使われています。
たとえるなら、「発熱」に近い言い方です。「熱がある」というのは状態であって、その原因はかぜかもしれないし、別の病気かもしれない。「認知症」も同じで、その状態を引き起こしている原因は、ひとつではありません。
- アルツハイマー型認知症——もっとも多いとされています
- 血管性認知症——脳の血管の病気が関わるもの
- レビー小体型認知症——実際には見えないものが見える、動きにくさが出るなどの特徴が説明されることがあります
- 前頭側頭型認知症——比較的若い年代で起こることがあるとされています
公的機関や医療機関の解説では、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、甲状腺の病気、ビタミンの不足など、治療によって改善が期待できる原因があることが繰り返し説明されています。また、飲んでいる薬の影響、うつの状態、脱水や感染症にともなう一時的な混乱(せん妄)などでも、似た様子が出ることがあるとされています。
つまり、「年のせいだろう」「認知症だろう」と家族が決めてしまうと、調べれば分かったかもしれないことを、見逃してしまう可能性があるのです。
この記事を読んで「うちの親はこれだ」と判断しないでください。判断できるのは、診察をした医師だけです。気になることがあれば、かかりつけ医、もの忘れ外来、地域包括支援センターに相談してください。
「新しい認知症観」という言葉
もうひとつ、知っておいていただきたい流れがあります。
2023年に成立し、2024年1月に施行された「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」という法律があります。そして、2024年12月には「認知症施策推進基本計画」が閣議決定されました。
この中で示されているのが、「新しい認知症観」という考え方です。おおまかに言えば、認知症になったら何もできなくなるわけではなく、認知症になってからも、その人にできること・やりたいことがあり、希望を持って自分らしく暮らし続けられる——そういう見方に立とう、というものです。
なぜこれをお伝えするかというと、この考え方が、日々の関わり方の土台になるからです。
目の前にいるのは「症状」ではなく、その人です。できなくなったことが増えたとしても、感じる力、嬉しい・悔しいと思う気持ち、大事にしてきたもの——そこは残っている、という前提に立つ。この記事のすべての章は、その前提の上に書いています。
ただし、正直に書きます。この考え方を知ったからといって、明日から楽になるわけではありません。実際に介護している家族にとって、日々はもっと具体的で、もっとしんどいものです。理念と現実は違う——それも、この記事では前提にしています。
② もの忘れと認知症について、言われていること
「これはただの年のせいなのか、それとも受診したほうがいいのか」——多くの方が、最初にここで迷います。
先に結論を書きます。この記事では、その線引きをしません。できないからです。
そのうえで、公的機関や医療機関が一般向けに説明している内容を、あくまで「そう言われている」という形で紹介します。
| 説明されていること | どう語られているか |
|---|---|
| 忘れ方の違い | 加齢によるもの忘れは「体験の一部」を忘れる——たとえば、夕食を食べたことは覚えているが、何を食べたか思い出せない。一方、認知症では「体験そのもの」が抜けてしまうことがある、と説明されることがあります |
| ヒントで思い出せるか | 加齢によるもの忘れでは、きっかけがあれば思い出せることが多いとされます |
| 自覚があるか | 加齢によるもの忘れでは、本人が「忘れっぽくなった」と自覚していることが多いとされます。認知症でも初期には自覚があることがあり、ここは単純に分けられません |
| ほかの変化があるか | 記憶以外に、日付や場所が分かりにくくなる、順序立てて物事を進めにくくなる、言葉が出にくくなるといった変化をともなうことがある、と説明されています |
| 生活に支障が出ているか | 医療機関の説明では、「日常生活に支障が出ているかどうか」が重要な視点として挙げられます。お金や薬の管理、買い物、電話、食事の準備、着替えといった場面が例として示されることがあります |
実際には、当てはまるようで当てはまらない、日によって違う、疲れている日だけおかしい——そういうことが普通に起こります。家族が観察して分類できるものではない、と考えてください。
そして繰り返しますが、似た様子を出す別の原因(①で書いたもの)があります。「たぶん認知症だから、様子をみよう」がいちばん避けたい判断です。
受診をためらってしまうとき
受診したほうがいいと分かっていても、進まないことがあります。本人が嫌がる。「私はぼけていない」と怒る。連れて行こうとすると、家族の関係が悪くなる。——これは、本当によくある話です。
- まず家族だけで相談する——地域包括支援センターや、かかりつけ医に、本人抜きで家族が先に相談することができます。「本人が来ないと話を聞いてもらえない」わけではありません
- 健康診断や、別の不調をきっかけにする——「血圧の薬をもらいに行くついでに」など、本人が受け入れやすい入り方を、医師や相談員と一緒に考えるという方法があります
- かかりつけ医から話してもらう——長年診てもらっている先生の言葉なら、聞けるという方もいます
- 「認知症初期集中支援チーム」に相談する——後半の⑪で詳しく書きますが、医療や介護につながっていない方のところに、専門職が訪問して関わる仕組みがあります
- 急がば回れで構いません——一度断られても、時期を変えると受け入れられることがあります
相談できる窓口については、介護の相談はどこにすればいい?無料で使える相談窓口まとめに一覧をまとめています。どこに電話すればいいのか分からない、という段階の方は、先にそちらを見てみてください。
③ 中核症状とBPSD(行動・心理症状)という考え方
ここが、この記事の中心にあたる部分です。少し理屈っぽくなりますが、ここを押さえると、④以降がずっと分かりやすくなります。
認知症の症状は、大きく「中核症状」と「BPSD(行動・心理症状)」に分けて説明されることが一般的です。
- 記憶の障害——新しいことが覚えにくい、少し前のことが残りにくい
- 見当識の障害——今がいつなのか、ここがどこなのか、目の前の人が誰なのかが分かりにくくなる
- 理解・判断力の低下——複雑なことや、二つ以上のことを同時に考えるのが難しくなる
- 実行機能の障害——段取りを立てて物事を進めることが難しくなる
- 言葉・動作・認識に関わる変化——言葉が出にくい、道具の使い方が分かりにくい、見えているものが何か分かりにくい
厚生労働省の資料などでは、行動面にあらわれるもの(大きな声が出る、強い口調になる、ひとりで外に出て行こうとする、ケアを受け入れられないなど)と、心理面にあらわれるもの(不安、気分の落ち込み、実際にはないものが見える、そこにないことを事実として受け取るなど)に整理されることがあります。
ここで大事なのは、BPSDは「中核症状によって起きた不安や混乱に、まわりの状況が重なって現れるもの」と説明される、という点です。つまり、必ず起きるものではなく、必ず同じ形で出るものでもありません。
なぜ「問題行動」と呼ばなくなったのか
かつては、こうした症状が「問題行動」と呼ばれていた時期がありました。いまも、日常会話や一部の記事では使われています。
けれど、介護・医療の分野ではこの言い方を避けるようになってきました。理由は、はっきりしています。
でも、その行動は、本人にとっては困った行動ではありません。本人には本人の理由があって、そうしているのです。
- 不安だから、確かめようとする
- ここが自分の家だと分からないから、家に帰ろうとする
- 大事なものが見つからないから、探す
- 何をされるのか分からないから、身を守ろうとする
- 体のどこかが痛い・気持ち悪いけれど、うまく言葉にできない
BPSDの背景にあるとされるもの
介護・看護の分野の解説では、BPSDの背景として、次のような要因が重なることがあると説明されています。
| 背景として挙げられるもの | 具体的に語られる例 |
|---|---|
| 体の状態 | 痛み、便秘、脱水、発熱や感染、空腹、眠れていないこと、かゆみ、尿が出にくいことなど。ここは非常に重要だと繰り返し指摘されています——不調をうまく言葉で伝えられないぶん、行動として出ることがあるためです |
| 薬の影響 | 飲んでいる薬が、眠気やふらつき、混乱に影響していることがあると説明されます。ただし、判断できるのは医師と薬剤師です。家族が中止・減量しないでください |
| 環境 | 引っ越しや入院・入居などの大きな環境の変化、部屋の模様替え、騒がしさ、暗さ、まぶしさ、暑さ寒さ、まわりの人の出入りなど |
| 気持ちの状態 | 不安、孤独感、これまでできていたことができなくなったことへの戸惑い、役割を失った感覚など |
| 関わり方や状況 | 急に手を出される、後ろから声をかけられる、複数のことを一度に言われる、急かされる——こうした状況が影響することがある、と説明されます |
この記事で、絶対に書かないと決めていることがあります。それは、「対応が悪いから症状が進む」「家族の関わり方が原因だ」といった書き方です。
症状の出方は、原因となっている病気、その日の体調、本人がもともと持っている性格や人生の背景、環境——たくさんのものが絡み合っています。家族の対応ひとつで決まるようなものではありません。
毎日そばにいる家族が、いつも穏やかでいられるはずがないのです。疲れているときに強い口調になってしまったとしても、それはあなたが冷たいからではありません。この記事は、その前提で書いています。
そしてもちろん、ご本人を責めるための記事でもありません。
「理由を探す」ことの、現実的な話
ここまで読んで、「理由を探せばいいのか」と思われたかもしれません。半分そうですが、半分は違います。
理由が分からないことのほうが、実際には多いです。探しても見つからない。見つかっても、どうにもできない。時間も余裕もない。——それが現実です。
ですから、こう考えてみてください。「理由を突き止める」ではなく、「理由があるらしい、と知っておく」だけでいい。
それだけでも、「わざとやっている」「嫌がらせだ」という受け取り方から、少し離れられます。この距離が、日々の消耗を減らしてくれることがあります。
④ 同じことを何度も聞かれるとき
「今日は何日だっけ」「ごはんはまだか」「あの人はいつ来るの」——数分前に答えたことを、また聞かれる。
1回目は普通に答えられます。3回目もなんとか。でも10回目になると、声のトーンが変わってしまう。そして「さっき言ったでしょう」と言ってしまって、あとで落ち込む。
これは、多くの方が通る場面です。
何が起きているとされるか
一般的な説明では、新しく聞いたことが記憶として残りにくくなっているため、本人にとっては「毎回が1回目」になっているとされます。
つまり、本人は「同じことを聞いている」とは思っていません。ここが、家族との決定的なずれです。
そして、くり返し聞く背景には、不安があることが多いとも説明されます。分からないことがあると落ち着かない。確かめたい。安心したい。質問の中身より、「不安」のほうが本体である場合がある、という見方です。
- 短く、同じ言い方で答える——毎回ちがう説明をすると、かえって混乱することがあると言われます
- 「さっき言った」を、なるべく言わない——本人には身に覚えがないので、責められたと感じてしまうことがあります。とはいえ、つい言ってしまう日はあります。それで台無しになるわけではありません
- 答えを、目に見える形にしておく——大きめのカレンダー、時計、「◯時に帰ります」と書いた紙。見て確認できると、聞く回数が減ることがあります
- 不安のほうに応える——「大丈夫だよ」「私はここにいるよ」。質問への正解より、こちらのほうが届く場面があります
- 話題を変える、場面を変える——お茶を出す、窓の外を見る、別の部屋に移る。いったん場面が切り替わると、質問が止まることがあります
- 「聞かれること自体」から一度離れる——家事をしながら「うん、うん」と返すだけの時間があってもいいのです
ここは家族の判断ではなく、医療につないでください。かかりつけ医、訪問看護、施設に入居中なら看護職員や施設の職員に伝えてください。
「たかがもの忘れ」と片づけず、「いつもと違う」を伝えることに意味があります。
⑤ 「物を盗られた」と言われるとき
これは、家族にとってとくにこたえる場面のひとつです。
財布がない、通帳がない、指輪がない——そして、いちばん近くで世話をしている人が疑われる。「あなたが持って行ったんでしょう」と言われる。
毎日いちばん働いている人が、いちばん疑われやすい。この理不尽さは、経験した方にしか分からないと思います。
背景として説明されていること
一般的な解説では、物をしまった場所が思い出せないことと、大切なものが手元にないという強い不安が重なって起きると説明されることがあります。
そして、疑いの向く先が身近な人になりやすいことについては、いくつかの説明の仕方があります。関わりが深い人ほど記憶に残りやすいから、頼っている相手だからこそ複雑な感情が向きやすいから、など。ただし、これは断定できるものではありません。
ひとつだけ、はっきり言えることがあります。その言葉は、あなたへの評価ではありません。
- いきなり否定しない——「盗ってない」「そんなわけない」と真正面から返すと、対立が深まることがあります。まず「なくなったんですね、それは困りましたね」と、困っている気持ちのほうを受け取る
- 一緒に探す——探す行為そのものが、安心につながることがあります
- 見つけたときに、先に手渡さない——「ここにあったよ」と家族が見つけて渡すと、疑いが強まることがある、と言われます。本人が自分で見つけられるように、それとなく促すという工夫が紹介されています
- 置き場所を決めておく——いつも同じ場所にある、という状態を作ると、探す場面自体が減ることがあります
- その場を、別の人に代わってもらう——同じことを言われても、相手が変わると収まることがあります。家族の中で交代できるなら、それも方法です
- 言われた側が、その場を離れる——逃げではありません。その場から距離を取ることは、正当な対処です
たまに顔を出すきょうだいや親戚に、本人が「あの子が持っていく」と話す。それを聞いた側が本気にしてしまう。——これで家族関係がこじれることは、実際に起こります。
ですから、先に共有しておいてください。「こういうことを言う場面がある」「これは症状として説明されているものだ」と、あらかじめ伝えておくだけで、防げることがあります。
きょうだい間での分担や、こうした行き違いへの向き合い方については、きょうだいでの介護分担にまとめています。「言われた側が孤立しない」ことが、いちばん大事です。
本人が管理しきれなくなっている、繰り返しなくす、金銭のトラブルが心配、といった状況であれば、地域包括支援センターや、市区町村の窓口、社会福祉協議会などに相談するという道があります。成年後見制度や、日常的なお金の管理を支援する仕組みについて、案内を受けられる場合があります。
家族だけで抱えて、あとから親族間で揉めるより、先に公的な窓口に相談しておくほうが安全です。
⑥ 帰ろうとする・外に出ていこうとするとき
自宅にいるのに「家に帰る」と言う。施設で「もう帰ります」と荷物をまとめる。夜、玄関に立っている。気づいたら、外に出ていた。
これは、家族にとって心配がいちばん大きい場面かもしれません。安全に直結するからです。
言葉について、ひとつ断っておきます
この場面は、かつて「徘徊」という言葉で呼ばれていました。いまも使われていますが、この言い方を避ける自治体や団体が増えています。
理由は、③で書いた「問題行動」と同じです。「あてもなく歩き回る」という意味合いが、実際とは違うからです。本人の中には、たいてい目的があります。
- いまいる場所が、自分の家だと分からない——だから、自分の家に帰ろうとする。この「家」が、何十年も前に住んでいた家であることもあります
- やらなければいけないことがある——仕事に行く、子どもを迎えに行く、夕飯の買い物をする。本人の中では、いまも現役の役割です
- その場に居づらい、落ち着かない——うるさい、まぶしい、人が多い、居場所がないと感じている
- 探しているものがある
- 体が落ち着かない——トイレに行きたい、痛い、じっとしていられない
- 単純に、外に出たい——これは症状ではなく、ごく自然な欲求です
- 正面から止めない——腕をつかむ、体で塞ぐ、「ダメ」と言う。これは、かえって強い抵抗を生むことがあると言われます
- まず受け止める——「帰るんですね」「どちらまで?」と、話に乗る形で聞く
- 一緒に少し歩く——止めるのではなく、付き添って外に出て、ひと回りして戻る。歩いているうちに気持ちが切り替わることがある、とよく紹介されます
- 時間を提案する——「じゃあ、お茶を飲んでから行きましょうか」「暗いから、明日の朝にしませんか」
- 役割や用事を、いったん引き受ける——「連絡しておきましたよ」など。ただし、これは⑩で書く「嘘をつくこと」の難しさとつながる話です
- 出て行きやすい時間帯を知っておく——夕方に多いという声はよく聞かれます(⑧参照)
ひとりで外に出て、戻れなくなることは、実際に起こりえます。夏の暑さ、冬の寒さ、交通事故——命に関わる場面につながることがあります。
これは「家族が見張っていれば防げる」たぐいのものではありません。24時間見続けることは、誰にもできないからです。寝ていない、目を離せない、という状態が続いているなら、それは仕組みで支えるべき状況です。
多くの市区町村では、「見守りネットワーク」「SOSネットワーク」といった名前で、あらかじめ本人の情報を登録しておき、行方が分からなくなったときに地域や関係機関に協力を求める仕組みが作られています。名称や運用は自治体によって違います。GPS機器の貸し出しや、衣類・持ち物に貼るシールを配っている市区町村もありますが、これも自治体によります。
まずは、地域包括支援センターか、市区町村の高齢者福祉の窓口に相談してください。「うちの地域では、どういう仕組みがありますか」と聞けば、案内してもらえます。
そして、実際に行方が分からなくなったときは、ためらわずに警察に連絡してください。「大げさかもしれない」と待つ時間が、いちばん危険です。
ただ、これは身体拘束にあたる可能性があり、介護保険の施設・事業所では原則として認められていません。在宅であっても、本人の不安や混乱を強め、状況を悪化させることが多いと説明されています。火災など、緊急時の危険もあります。
「そうするしかない」と思うところまで来ているなら、それは相談が必要な段階です。⑪の相談先を見てください。責められるべきなのは家族ではなく、家族がそこまで一人で背負わされている状況のほうです。
⑦ 怒りっぽくなった、と感じるとき
穏やかだった親が、強い口調で怒鳴る。ちょっとしたことで不機嫌になる。ときには手が出そうになる。「別人になってしまった」と感じる方がいます。
これは、家族の心を最も削る場面のひとつです。言われた言葉が、あとから何度も頭の中で再生されます。
言われていること
一般的な説明では、感情を抑える働きに変化が起きることがあるとされ、また不安・混乱・自尊心が傷つく体験が背景にあることがあると説明されます。
できていたことができなくなる。まわりに指摘される。子どもに世話をされる。これは、その人にとって、想像しづらいほど大きな出来事かもしれません。その悔しさや情けなさが、怒りの形で出ることがある、という見方です。
ただし、これはあくまで一般的な説明です。目の前の場面が本当にそうなのかは、この記事では判断できません。
- 安全を最優先にする——手が出そうな場面では、まず距離を取ってください。これが最優先です
- 言い返さない、説得しない——怒っている最中の説明は、たいてい届きません
- いったん場を離れる——別の部屋に行く、外の空気を吸う。数分でも違います
- 否定形を減らす——「ダメ」「違う」より、してほしいことを短く伝えるほうが伝わりやすいと言われます
- 正面から、目線を合わせて、ゆっくり話す——後ろから声をかけると驚かせてしまうことがある、と説明されます
- 一度にひとつだけ伝える
- あとに引きずらない工夫をする——記録に書く、誰かに話す。抱えたままにしないでください
③で挙げたとおり、痛み、便秘、脱水、発熱、感染症、眠れていないこと、薬の影響などが背景にある場合があるとされます。とくに短期間で急に様子が変わった場合は、医療の確認が必要な状況かもしれません。
家族が「性格が変わった」と受け止めて我慢するのではなく、医師に相談してください。施設に入居中であれば、職員・看護職員に伝えてください。
薬については、この記事では何も判断しません。効く・効かない、増やす・減らすの話は、必ず処方している医師とご相談ください。
これは家族の側の安全の問題であり、同時に、本人にとっても良い状況ではありません。
ケアマネジャー、地域包括支援センター、かかりつけ医に、そのまま伝えてください。「こんなことを言ったら親が悪く思われる」と隠す必要はありません。専門職は、そういう状況を前提に仕事をしています。伝えてはじめて、使える支援が出てくることがあります。
⑧ 夕方から落ち着かなくなるとき
昼間は穏やかだったのに、日が傾くころから、そわそわしはじめる。帰り支度を始める。不安そうになる。急に怒りっぽくなる。
介護の現場では、こうした様子が「夕暮れ症候群」と呼ばれることがあります。夕方から夜にかけて落ち着かなくなる状態を指す、現場でよく使われる言い方です。
なぜ夕方に多いのかについても、光の変化、一日の疲れ、生活のリズム、長年の習慣(夕飯の支度や帰宅の時間帯)など、いくつもの説明のされ方があります。どれが正しいと言い切れるものではありません。
また、夕方から夜にかけて急に混乱が強くなる場合、体調の変化や、せん妄と呼ばれる状態が関わっていることもあると説明されています。いつもと違うと感じたら、医療に相談してください。
- 暗くなる前に、部屋を明るくする——薄暗さが不安につながることがあると言われます
- 昼間に体を動かす、日光にあたる時間を作る——生活のリズムを整えることが勧められています
- 夕方に、簡単な役割を持ってもらう——洗濯物をたたむ、野菜を洗う、お茶をいれる。「やることがある」状態が、落ち着きにつながることがあります
- この時間帯に難しい話をしない——大事な相談は、落ち着いている時間帯に
- 好きな音楽やテレビ、なじみのあるものを近くに置く
- 家族の側が、この時間帯に予定を詰めない——夕方は家事も忙しい時間です。重なると、双方がしんどくなります
施設に入居中の方の場合、面会の時間帯を、本人が落ち着いて過ごせる時間に合わせるという考え方もあります。「何時ごろが落ち着いていますか」と職員に聞いてみると、教えてもらえることがあります。入居後の関わり方については入居後の面会と関わり方にまとめています。
⑨ 食事や入浴を嫌がるとき
ここは、「やらせなければ」という気持ちと、本人の拒否がぶつかりやすい場面です。とくに入浴は、毎回が大仕事になることがあります。
食事のとき
- 口の中の問題——歯が痛い、入れ歯が合っていない、口内炎がある。ここは見落とされやすいと指摘されます
- 飲み込みにくさ——むせる経験があると、食べることが怖くなることがあります
- 体調——便秘、胃の不快感、薬の影響、発熱
- 目の前のものが「食べ物」だと分かりにくい——認識に関わる変化が影響することがあるとされます
- 食器や箸の使い方が分かりにくい
- まわりが気になって集中できない——テレビの音、人の動き
- すでに食べたと思っている/お腹が空いていない
脱水や低栄養、誤嚥(食べ物や飲み物が気管に入ってしまうこと)は、命に関わることがあります。かかりつけ医、歯科(訪問歯科という選択肢もあります)、管理栄養士、施設なら看護職員や職員に、早めに相談してください。
食事の形(きざみ、とろみなど)を変えるかどうかも、専門職の判断が必要な領域です。飲み込む力に合わない形にすると、かえって危険なことがあります。自己流で変えないでください。
入浴のとき
「お風呂に入って」と言うだけで、強く拒まれる。何日も入っていない。においが気になる。——このやりとりが、毎日の消耗になります。
- 面倒、寒い、疲れる——服を脱いで、洗って、拭いて、着る。これは、実はとても手数の多い作業です
- 怖い——浴室で滑ったことがある、湯船をまたぐのが不安
- 恥ずかしい——裸を人に見られること、とくに子どもや異性に見られることへの抵抗
- すでに入ったと思っている
- 入り方が分からなくなっている——手順が分からず、それを言えない
- 体調が悪い——だるい、痛い
- 「入って」と言わず、別の入り口から誘う——「足だけ温めませんか」「背中だけ流しましょうか」。ハードルを下げると、応じられることがあります
- タイミングを変える——夜にこだわらず、機嫌のよい時間帯に
- 一度断られたら、引く——押し問答になると、次はもっと難しくなることがあります。「今日はやめておこう」でいいのです
- 脱衣所と浴室を暖めておく——寒さは大きな理由になります。温度差は、体にとっても負担です
- 体を拭く、部分的に洗う、髪だけ洗う——毎回きちんと入らなくても、清潔は保てます
- 家族以外に任せる——ここが、いちばん現実的な解決になることがあります
- デイサービスでの入浴——通う先で入ってくる形。「家では嫌がるのに、デイでは入る」という話は、よく聞かれます
- 訪問介護(ホームヘルプ)——自宅での入浴や清拭の介助
- 訪問入浴介護——専用の浴槽を持ち込んで入浴を行うサービス
家族が全部やろうとしないでください。親子だからこそ、うまくいかないことがあります。他人のほうが受け入れられる——これは、恥ずかしいことでも、負けでもありません。
⑩ 「否定しない」の、本当の意味
認知症のケアについて調べると、必ず出てくる言葉があります。「否定しない」「話を合わせる」「本人の世界に入る」。
この記事でも、④〜⑨で似たことを書いてきました。けれど、ここで一度立ち止まりたいと思います。
なぜ「否定しない」と言われるのか
まず、この考え方の土台を確認します。
認知症ケアの分野では、「パーソン・センタード・ケア」——その人を中心としたケア、という考え方が広く共有されています。症状ではなく、その人がどう感じ、何を思っているかを大切にするという立ち位置です。
この考え方からすると、本人が事実だと感じていることを、正面から否定することは、その人の体験を否定することになります。そして、否定されても記憶に残るのは「否定された」という感情のほうだ、と説明されることがあります。だから、まず受け止める。——これが「否定しない」の背景です。
「否定しない」を、そのまま守ろうとすると、無理が出ることがあります。
1. 嘘をつき続けることの重さ
亡くなった配偶者を「もうすぐ帰ってくる」と言い続ける。行くはずのない職場に「連絡しておいた」と言う。これを毎日続けることは、家族にとって想像以上の負担になります。親を騙しているような感覚に、耐えられなくなる方がいます。その感覚は、おかしいものではありません。
2. 話を合わせた結果、事態が動いてしまうことがある
「じゃあ行きましょうか」と合わせたことで、外出につながってしまう。約束したと受け取られて、後で強く求められる。合わせることが、いつも穏やかな結果になるとは限りません。
3. 安全に関わることは、止めなければならない
火の元、車の運転、薬、階段。ここは「否定しない」より優先されます。ただし止め方は工夫が必要で、これは専門職と一緒に考える領域です。
4. その方によって、合う関わり方が違う
話を合わせると落ち着く方もいれば、ごまかされたと感じて怒りが強くなる方もいます。「全員にこれが正解」という方法は、存在しません。
では、どう考えればいいのか
この記事なりの整理を書きます。これも「正解」ではなく、ひとつの考え方として読んでください。
- 「財布を盗られた」→ 盗られたことを肯定する必要はありません。「なくなって困っているんですね」と、困っている気持ちのほうを受け取る
- 「家に帰る」→ 「ここが家じゃない」と言い張る必要も、「帰りましょう」と嘘をつく必要もありません。「帰りたいんですね」と、気持ちのほうに応える
- 「あの人はまだ帰らないのか」→ 事実を突きつけるのでも、作り話をするのでもなく、「会いたいですね」と気持ちを共有する
毎回できる人は、いません。プロでも、24時間ずっと同じ人と向き合い続けているわけではありません。交代があり、休みがあり、相談できる同僚がいて、それでようやく成り立っています。
家族は、その全部を一人で、しかも「自分の親」という関係の中でやっています。うまくいかないのが当たり前です。
強く言ってしまった日があっても、それで何かが決定的に壊れるわけではありません。この記事は、あなたを採点するために書いたものではありません。
迷ったら、専門職に「その場面の話」を聞いてください
本や記事に書いてあるのは、一般論です。目の前の場面に合うかどうかは、実際に見ている人にしか分かりません。
ケアマネジャー、訪問介護のヘルパー、デイサービスの職員、施設の職員、看護師、医師。「こういうとき、どうされていますか」と具体的に聞いてみてください。現場の人は、その方に合わせた関わり方を知っていることがあります。
施設に入居中の場合も同じです。面会で困った場面があれば、職員に聞いてみてください。日々そばにいる人だからこそ知っていることがあります(入居後の面会と関わり方でも触れています)。
⑪ 家族が限界を感じたときの相談先
ここまで、いろいろな工夫を書いてきました。でも、工夫でどうにもならない時期があります。
眠れていない。仕事に行けない。自分の体調が崩れている。感情が抑えられなくなってきた。「このままだと、まずいことになる」と感じている。
そう感じているなら、いまが相談するときです。限界まで待つ必要はありません。
なお、車の運転についての心配がある場合は、認知症の診断とは別に考えるべき点があります。親の運転免許の返納にまとめています。
| 相談先 | どんなところか |
|---|---|
| 地域包括支援センター | まず、ここです。市区町村が設置している、高齢者の総合相談窓口。おおむね中学校区ごとなど、地域ごとに置かれています。無料で相談でき、介護保険の手続き、サービスの案内、医療につなぐこと、地域の仕組みの案内まで、まとめて相談できます。本人が来なくても、家族だけで相談できます |
| かかりつけ医 | 長く診てもらっている医師がいるなら、まずここに相談するという道があります。必要に応じて、専門の医療機関を紹介してもらえることがあります |
| もの忘れ外来など | もの忘れや認知機能について相談できる外来。予約が必要なことが多く、地域によっては待つこともあります。どこにあるかは、地域包括支援センターや市区町村の窓口で教えてもらえます |
| 認知症疾患医療センター | 都道府県・指定都市が指定している、認知症に関する専門的な医療を担う医療機関です。鑑別診断、症状が強く出ているときの対応、専門的な相談、地域の関係機関との連携などを担うとされています。受診の方法や紹介の要否は施設によって異なるので、事前に確認してください |
| 認知症初期集中支援チーム | 地域包括支援センターや市町村、認知症疾患医療センターなどに設置されている、複数の専門職からなるチームです。厚生労働省の資料では、40歳以上で、在宅で生活しており、認知症が疑われる人または認知症の人のうち、「医療・介護サービスを受けていない、または中断している」「サービスは受けているが行動・心理症状への対応に苦慮している」といった方が対象として示されています。家庭を訪問して、初期の支援を集中的に行う仕組みです |
| 認知症地域支援推進員 | 市町村に配置され、医療・介護・地域の資源をつなぐ役割を担うとされています。相談先が分からないとき、間に立ってもらえることがあります |
| 認知症カフェ | 認知症の本人、家族、地域の人、専門職などが集まれる場。相談窓口というより「話せる場所」に近く、運営は地域ごとにさまざまです。開催の有無や日時は、市区町村や地域包括支援センターで確認できます |
| 公益社団法人 認知症の人と家族の会 | 全国に支部がある家族の団体です。フリーダイヤルの電話相談(0120-294-456/土日祝を除く10時〜15時、研修を受けた介護経験者が対応)があり、各都道府県の支部でも電話相談が行われています。「つどい」と呼ばれる、家族が集まって話す場も各地で開かれています。番号や受付時間は変更されることがあるので、公式サイトでご確認ください |
| 若年性認知症コールセンター | 65歳未満で発症した場合について相談できる、全国からの無料電話相談窓口(0800-100-2707)です。都道府県ごとに若年性認知症支援コーディネーターが配置されているとされます。仕事、収入、子育てなど、高齢期とは違う課題があるためです |
| ケアマネジャー(介護支援専門員) | すでに介護保険を使っているなら、担当のケアマネジャーが最も身近な相談相手です。サービスの追加、内容の変更、ショートステイの利用など、状況に応じて調整してもらえます |
電話番号、受付時間、対象、名称、実施の有無は、変更されることがあります。また、認知症初期集中支援チームや認知症カフェの運用は、市区町村によって差があります。
最新の情報は、お住まいの市区町村の窓口、地域包括支援センター、各団体の公式サイトでご確認ください。
「何を相談したらいいか分からないのですが」で始めて、まったく問題ありません。状況を聞きながら整理するのが、相談員の仕事です。
そして、相談したからといって、すぐに施設に入れられるわけでも、サービスを押しつけられるわけでもありません。「まだ何も決められない」「話を聞くだけにしたい」と伝えて構いません。
どこに何を相談できるかの一覧は、介護の相談はどこにすればいい?無料で使える相談窓口まとめにまとめています。電話をかける前に、目を通してみてください。
施設という選択肢について
在宅で介護されている方の中には、「施設のことを考えるのは、親を見捨てることだ」と感じている方がいます。
この記事では、それを急かすつもりはありません。ただ、ひとつだけ書いておきます。
選択肢を知っておくことと、決めることは、別のことです。調べたからといって、入居しなければならないわけではありません。知らないまま限界を迎えるより、知ったうえで「まだ在宅で続ける」と選ぶほうが、ずっと強い選択です。
罪悪感については、親を施設に入れるのはかわいそう?罪悪感との向き合い方にまとめています。いま読むのがつらければ、飛ばしてください。
⑫ 家族自身のケアについて
最後の章です。ここまで、ご本人への向き合い方を書いてきました。けれど、この記事を読んでいるのは、ご本人ではなく、あなたです。
認知症の介護が、とくにこたえる理由
体の介護と比べて、認知症の介護には、独特のしんどさがあると言われます。
- 先が見えない——どのくらい続くのか、これからどうなるのか、誰にも言えません。この記事でも書けません
- 感謝が返ってきにくい——してもらったことが記憶に残らないことがあります。それどころか、疑われることもあります(⑤)
- 「親が変わっていく」ことを、見続けなければならない——これは、静かに続く喪失です
- 終わりがないように感じる——夜も、休みの日も、頭から離れません
- まわりに理解されにくい——たまに会う人の前ではしっかりしていて、「そんなに悪くないじゃない」と言われる。これで孤立する方がいます
- 自分の感情に、罪悪感を持ってしまう——いらだち、憎しみに近い感情、いなくなってほしいという一瞬の考え。それを持ってしまった自分を責める
介護をしている人が、負の感情を持つのは、異常なことではありません。疲れていれば、誰でもそうなります。むしろ、ずっと平然としていられるほうが不自然です。
いらだちを覚えたこと、強い言葉を返してしまったこと、「もう嫌だ」と思ったこと。それを持ったからといって、あなたが親を大事にしていないことにはなりません。
大事に思っていない相手に、人はこれほど消耗しません。
具体的に、してほしいこと
- 介護している事実を、外に開く——ケアマネジャー、地域包括支援センター、かかりつけ医。「困っている」と言葉にしないと、支援は届きません
- 使えるサービスを、遠慮なく使う——デイサービス、ショートステイ、訪問介護。「かわいそうだから」と使わずにいると、共倒れになります
- 同じ立場の人と話す——家族の会の「つどい」、認知症カフェ、地域の家族会。説明しなくても分かってもらえる場は、専門的な助言とは違う効き方をします
- きょうだいと状況を共有する——一人だけが抱えている状態は、いつか必ず限界がきます。きょうだいでの介護分担を参考にしてください
- 自分の体を、後回しにしない——健康診断、歯の治療、眠れているか。あなたが倒れたら、そこで全部が止まります
- 短い休みを、定期的に——まとまった休みは取りにくくても、1時間だけ外に出る、といったことはできる場合があります
これは「気の持ちよう」ではありません。あなた自身が、医療にかかるべき状態かもしれません。
内科でも、心療内科でも構いません。まず、かかりつけ医に相談してください。介護をしていることも、そのまま伝えてください。
介護をしている人が休むことは、わがままではありません。それは、この介護を続けるために必要なことです。
家族自身の心のケアについては、介護する家族の心のケア|共倒れしないためにに、もう少し詳しくまとめています。疲れがたまっていると感じたら、そちらも読んでみてください。自分の消耗は、自分ではいちばん気づきにくいものです。
📌 まとめ
- 「認知症」は病名ではなく、いろいろな原因によって日常生活に支障が出ている「状態」を指す言葉として使われています。原因となる病気は複数あり、経過も対応の考え方も同じではありません
- 似た様子が出る、別の原因もあります。慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、甲状腺の病気、ビタミンの不足、薬の影響、うつの状態、脱水や感染にともなう一時的な混乱など。「年のせいだろう」と家族が決めてしまうと、調べれば分かったかもしれないことを見逃します
- この記事では、診断も、進行の予測もしていません。症状の出方も進み方も人によって大きく違います。気になる様子があれば、かかりつけ医、もの忘れ外来、地域包括支援センターへ
- 症状は「中核症状」と「BPSD(行動・心理症状)」に分けて説明されます。BPSDは、中核症状から生じる不安や混乱に、体調・環境・状況などが重なって現れるものと説明され、必ず起きるものでも、同じ形で出るものでもありません
- かつて「問題行動」と呼ばれた言い方は、介護の分野では避けられるようになりました。それは介護する側から見た評価だからです。本人にとっては理由のある行動——この捉え方が、いまの認知症ケアの立ち位置です
- 背景として、体の状態(痛み・便秘・脱水・発熱・不眠など)が非常に重要だと繰り返し指摘されています。言葉で伝えられないぶん、行動として出ることがあるためです。「いつもと違う」は、医療に伝えてください
- 薬について、この記事では何も判断しません。効く・効かない、増減の相談は、必ず処方している医師へ。家族の判断で中止・変更しないでください
- 同じことを何度も聞かれるのは、本人にとって「毎回が1回目」だからと説明されます。質問の中身より不安が本体である場合があり、短く同じ言い方で答える、見える形にしておく、といった工夫が語られています
- 「物を盗られた」と言われるのは、あなたへの評価ではありません。否定より、困っている気持ちを受け取る。見つけたときに先に手渡さない、といった工夫が紹介されています。離れて暮らす家族が真に受けないよう、先に共有しておくことも大切です
- 外に出ていこうとする場面には、たいてい本人なりの目的があります。正面から止めない、一緒に少し歩く、といった工夫が語られますが、安全は家族だけで抱えないでください。市区町村の見守り・SOSネットワーク等について地域包括支援センターに相談を。実際に行方が分からなくなったら、ためらわず警察へ
- 閉じ込める・縛るは解決になりません。「そうするしかない」と感じる段階まで来ているなら、それは相談が必要な状況です
- 怒りっぽいと感じる場面では、まず安全を最優先に。言い返さず、場を離れて構いません。急に強い変化が出たときは体調が関わっていることがあります。暴力がある場合は我慢せず、そのまま専門職に伝えてください
- 夕方から落ち着かなくなる様子は「夕暮れ症候群」と呼ばれることがありますが、目の前の様子がそれに当たるかは判断できません。いつもと違うと感じたら医療へ
- 食事・入浴を嫌がる背景にも理由があります。食べられない・水分が取れない・むせるが続くときは、工夫ではなく医療へ。入浴は、デイサービスや訪問系のサービスで家族が担わないという選択肢があります
- 「否定しない」は、機械的な正解ではありません。嘘を続ける負担、合わせた結果の副作用、安全が優先される場面、人によって合う関わりが違うこと。「事実を肯定する」ではなく「気持ちを受け取る」と置きかえると、二択から離れられることがあります
- できなかった日があっても、責めないでください。プロは交代と休みと相談相手があって成り立っています。家族は、それを一人で、しかも親子の関係の中でやっています
- 限界を感じる前に相談を。地域包括支援センター、かかりつけ医、もの忘れ外来、認知症疾患医療センター、認知症初期集中支援チーム、認知症地域支援推進員、認知症カフェ、認知症の人と家族の会、若年性認知症コールセンター、担当ケアマネジャー。「何を相談したらいいか分からない」で始めて構いません
- 負の感情を持つのは、異常なことではありません。大事に思っていない相手に、人はこれほど消耗しません。眠れない・食欲がない・涙が出る・消えたいと思うことがあるなら、あなた自身が受診してください
認知症の介護が特別にこたえるのは、「相手が変わっていくこと」を、いちばん近くで見続けなければならないからだと思います。返事がかみ合わない。名前が出てこない。昨日のことが残らない。そのたびに、静かに何かを失っていくような感覚がある。
それでも、この記事の①で書いたことを、もう一度だけ。目の前にいるのは「症状」ではなく、その人です。できなくなったことが増えても、嬉しい・悔しい・安心する・怖い——そう感じる力は残っている、というのが、いまの認知症ケアの前提になっています。
だから、うまく話せなくても、穏やかな声で話しかけられた時間や、隣に座っていた時間は、その人の中に何かを残しているかもしれません。断定はできません。けれど、そう考えることには意味があると思います。
そして、あなたのほうも、同じように大事にされる必要があります。完璧に対応できなくていい。イライラしてしまう日があっていい。手を離せる部分は、離していい。
一人で抱えないでください。それが、この記事でいちばんお伝えしたかったことです。
この記事では、医学的な診断や判断をいっさいしていません。「これは認知症です」「この型です」といった判断は、診察をした医師にしかできません。気になる様子があれば、かかりつけ医、もの忘れ外来などの医療機関、地域包括支援センターにご相談ください。
症状の進み方は人によって大きく異なります。「何年でこうなる」といった見通しは、この記事では示していません。
薬に関する判断はしていません。種類、量、開始や中止については、必ず処方している医師にご相談ください。家族の判断で変更しないでください。
各章で紹介した関わり方は、「介護の現場で共有されている工夫」であり、確実な方法ではありません。合う・合わないは人によって、また日によって異なります。できなかったことで、ご家族が責められる筋合いはありません。
相談窓口の名称・電話番号・受付時間・実施状況は変更されることがあります。最新の情報は、お住まいの市区町村、地域包括支援センター、各団体の公式サイトでご確認ください。
- 「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」(2023年成立・2024年1月施行)——認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるようにするという目的、および基本理念について。条文の内容は要約してお伝えしています
- 「認知症施策推進基本計画」(2024年12月3日 閣議決定)——「新しい認知症観」の考え方について。認知症になってからも、一人一人にできること・やりたいことがあり、希望を持って自分らしく暮らし続けることができる、という趣旨として紹介しています
- 厚生労働省による、BPSD(認知症の行動・心理症状)に関する資料・説明——行動面にあらわれるものと心理面にあらわれるものに整理されること、中核症状との関係について
- 厚生労働省「認知症に関する相談窓口」および認知症施策関連の公表資料——認知症初期集中支援チームの目的・対象・配置場所(地域包括支援センター、市町村、認知症疾患医療センター等)、認知症地域支援推進員、認知症疾患医療センターの役割について。対象要件は資料の記載を要約したものです
- 認知症介護研究・研修センターおよび認知症介護情報ネットワーク(DCnet)の公表情報——パーソン・センタード・ケア(その人を中心としたケア)の考え方、BPSDのケアに関する研究・研修の枠組みについて。同センターは厚生労働省により設置された、認知症介護に関する研究・研修の中核機関とされています
- 公益社団法人 認知症の人と家族の会の公表情報——全国共通のフリーダイヤルによる電話相談(研修を受けた介護経験者が対応、土日祝を除く10時〜15時)、都道府県支部での電話相談、「つどい」の開催について。電話番号・受付時間は変更されることがあります
- 若年性認知症コールセンター(全国若年性認知症支援センター事業)の公表情報——全国から無料で相談できる電話窓口であること、若年性認知症支援コーディネーターの配置について
- 国立長寿医療研究センターなど公的機関による、認知症の原因と「もの忘れ」に関する一般向け解説——原因となる病気が複数あること、頻度の高い4つの病気、加齢によるもの忘れとの語られ方の違い、日常生活への支障という視点について。本文の表は「そう説明されている」という形で紹介したもので、判断の基準ではありません
- 治療によって改善が期待できる原因に関する、医療機関・公的機関の一般向け解説——慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、甲状腺の病気、ビタミンの不足などが挙げられること。個別の判断は、必ず医師によります
- BPSDの背景要因に関する、看護・介護分野の解説——身体的な要因(痛み、便秘、脱水、感染、発熱など)、薬剤の影響、環境要因、心理的要因、関わり方や状況が重なりうること。また、かつて「問題行動」と呼ばれていた呼称が「行動・心理症状(BPSD)」に置きかえられてきた経緯について
- 市区町村・都道府県による「見守り・SOSネットワーク」等の公表情報——事前登録の仕組み、行方が分からなくなったときの情報共有、GPS機器の貸し出しやシールの配布などの取組。名称・内容・実施の有無は自治体によって大きく異なります
- 「夕暮れ症候群」に関する、介護分野での一般的な説明——夕方から夜にかけて落ち着かなくなる様子を指す、現場で用いられる呼び方として紹介しています。医学的な診断名として用いたものではありません