実家の片付け・実家じまい|
親が施設に入ったあとの家をどうするか
玄関を開けると、物がある。何十年ぶんもの物が、そのまま残っている。台所の引き出し、押し入れの奥、仏間の箪笥。どこから手をつければいいのか分からず、扉を閉めて帰ってきてしまう——そういう方は、本当に多いのです。
この記事では、家そのものをどうするかを先に決めること、親の気持ちを置き去りにしない進め方、絶対に捨ててはいけないもの、業者に頼むときに確認したいこと、そして空き家にする場合に知っておきたいことを、順を追って整理します。
急がなくて大丈夫です。全部を一度にやろうとしないことが、いちばんのコツです。
税金・相続・不動産の登記に関わることは、断定的なことを書いていません。固定資産税の扱いも、相続の手続きも、個々の事情や自治体の運用によって結論が変わります。実際に進めるときは、お住まいの市区町村の窓口と、税理士・司法書士・弁護士などの専門家に必ずご確認ください。
また、特定の業者について「良い」「悪い」といった評価は書いていません。書けるのは「どこを確認するとよいか」だけだと考えています。
① まず決めるのは「家をどうするか」です
片付けの話をする前に、どうしても先に決めておきたいことがあります。それは「この家を、これからどうするのか」です。
順番が逆になってしまう方が、とても多いのです。とりあえず片付け始めて、途中で「そもそもこの家、売るの?残すの?」という話になり、手が止まってしまう。あるいは、売ることになってから「あれ、全部捨てなくてもよかったのでは」と気づく。逆に、誰かが住むことになったのに家具を全部処分してしまった、ということも起こります。
家の使い道が決まると、どこまで片付ければよいのかが決まります。だから、先に決めるのです。
大きく分けて4つの道があります
| 選択肢 | どんな場合に向くか/片付けの度合い |
|---|---|
| そのまま残す (当面は空き家) |
本人が「いつか帰るかもしれない」と思っている、家族の気持ちの整理がついていない、きょうだいの話し合いがこれから、という場合。片付けは最小限(貴重品と傷むものだけ)で構いません。ただし空き家には管理の手間と責任が伴います(⑨で説明します) |
| 売る | 誰も住む予定がなく、維持の負担が重い場合。家財を出しきる必要があることが多いです。ただし建物を解体する前提の売り方や、家財が残ったままでの売買もあり得るため、不動産会社に片付けの範囲を先に相談すると無駄がありません |
| 貸す | 立地に需要があり、当面は手放したくない場合。家財を出したうえで、修繕やリフォームが必要になることが多いです。管理の手間や費用がかかるので、収支の見通しを確かめてから |
| 家族の誰かが住む | 子ども世帯が移り住む、近くに住む親族が使うなど。残す家財と入れ替える家財を分ける形の片付けになります。親の物をどこまで残すか、あらかじめ話し合っておくと後で揉めません |
大事なのは、「まだ決まっていない」ということを、家族の全員が分かっている状態にしておくことです。決まっていないのに一人が片付けを進めると、あとから「なぜ勝手に捨てたのか」という話になります。
「今は決めない。ただし、貴重品と大事な書類だけは先にまとめておく」——これは十分に立派な方針です。この段階でできることは、④のチェックリストに書いています。
名義がどうなっているかによって、売る・貸すといったことができるかどうか、誰の同意が必要かが変わります。親がご存命の場合、家は親のものです。家族が勝手に売ったり貸したりすることはできません。
また、判断する力が落ちてきている場合には、成年後見制度などの手続きが関わってくることがあります。ここは制度の話が複雑になるところなので、司法書士・弁護士などの専門家、または市区町村の窓口・地域包括支援センターにご相談ください。このサイトで結論をお伝えすることはできません。
「決めるための材料」を先に集める
どうするか決めるには、材料がいります。次のようなことを、分かる範囲で調べておくと、家族で話し合うときに役立ちます。
- 名義(登記の内容)——法務局で登記事項証明書を取ることができます。手続きの方法は法務局や司法書士に確認を
- 固定資産税がいくらかかっているか——毎年届く納税通知書に書かれています。維持費の見当がつきます
- そのほかの維持費——電気・水道・ガスの基本料金、火災保険、町内会費、庭木の手入れ、雪の多い地域なら除雪
- 住宅ローンが残っていないか
- 建物の状態——雨漏り、シロアリ、傾き。古い家ほど確認が必要です
- おおよその売却相場——複数の不動産会社に聞いてみると幅が分かります
- 親の希望——ここがいちばん大事です。②で書きます
② 親の気持ちを、置き去りにしない
ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。
片付けは、家族にとっては「作業」です。けれど親にとっては、自分の人生が入っている場所の話です。何十年も暮らし、子どもを育て、家族を送った家です。そこにある物は、家族から見ればガラクタでも、本人にとっては意味があるものかもしれません。
だから、本人がいるうちに、本人と一緒に決めるのがいちばんです。それができるなら、それに勝る方法はありません。
- 勝手に捨てない——本人が知らないうちに物がなくなっていた、というのは、大きな傷になります。「もう自分は帰らないと思われているんだな」と受け取る方もいます
- 本人が大事にしているものを、先に聞く——「これだけは残しておいてほしいものはある?」と聞く。数は少ないことがほとんどです
- 急かさない——「早くしないと」という空気は、本人にも家族にも良いことがありません。片付けは、多くの場合そこまで急ぐ話ではありません
片付けの話は、切り出しにくいものです
「実家、そろそろ片付けようと思うんだけど」——この一言が、なかなか言えない方が多いと思います。言えば、本人はこう受け取るかもしれないからです。「もう帰らせてもらえないんだ」と。
ですから、切り出し方には少し工夫があるとよいと思います。
| 伝わりにくい言い方 | 伝わりやすい言い方 |
|---|---|
| 実家、片付けないといけないから | 実家のこと、いま何がどこにあるか教えてくれる?分からないと困ることがあって |
| もう使わないでしょう、これ | これ、どうしたい?残しておきたい? |
| 全部捨てるからね | 残しておきたいものを先に選んでくれたら、それは大事に取っておくね |
| 物が多すぎるよ | 台所だけ、今日いっしょに見てもいい? |
| あの家、どうするか決めないと | あの家のこと、お母さん(お父さん)はどうしたいと思ってる? |
右側に共通しているのは、「決定を伝える」のではなく「意見を聞く」形になっていることです。それだけで、受け取り方がずいぶん変わります。
「捨てる」→「使ってくれる人に譲る」「リサイクルに出す」
「処分する」→「うちで引き取る」「こちらで預かる」
実際、まだ使える食器や家具は、リサイクルショップや寄付、地域の譲り合いの仕組みで次の人に渡ることがあります。「捨てるのではなく、次に渡す」と考えられると、本人も家族も気持ちが軽くなります。
また、写真に撮って残すという方法もあります。手放すけれど、形は記録に残す。「これは写真に撮っておこうか」という一言が、決断を助けることがあります。
本人が「捨てないで」と言うとき
片付けを進めていると、必ずこの場面が来ます。家族から見れば明らかに不要な物を、本人が手放したがらない。
そのときに、無理に説得しようとしないでください。物にしがみついているように見えても、その人が守ろうとしているのは、物ではなく「自分で決められること」だったりします。体のことも、住む場所も、多くのことを自分で決められなくなっていく時期です。せめて自分の持ち物くらいは、と思うのは自然なことです。
- いったん残す——期限を切らずに保留にする。急ぐ理由がないなら、これで構いません
- 数を決めて選んでもらう——「この中から5つ選ぼうか」。全部か無かではなく、選ぶ形にする
- 行き先を伝える——「これは◯◯さんが使ってくれるって」。捨てられるのではないと分かると、納得しやすくなります
- 施設の居室に持っていけないか考える——写真、小さな置物、愛用の湯のみ。持ち込めるものは施設によって決まりがあるので確認を。介護施設への入居時に必要な持ち物リストで持ち物の考え方を整理しています
- 写真に撮る——アルバムにして施設に持っていくと、話のきっかけにもなります
- 日を改める——その日の体調や気分で、答えは変わります。同じ物でも、別の日には「もういいよ」となることがあります
だからこそ、本人のいないところで大きく物を動かすのは、できるだけ避けたほうが安心です。やむを得ず進める場合も、家族の間で「いつ、何を、どうしたか」を共有しておくと、あとから説明ができます。
また、本人がその家に戻れると思っている段階で、家の中の様子が大きく変わることは、混乱のもとになります。進め方に迷うときは、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターなどの相談窓口に、「どう伝えたらよいか」から相談してみてください。
本人に聞けない状況のとき
体調や判断する力の状態によって、本人に確認するのが難しい場合もあります。そのときは、次のように考えてみてください。
「本人だったら、どうしたいと言うだろうか」——これを、家族で口に出して確かめながら進めることです。答えが分からなくても、この問いを持っているかどうかで、進め方は変わります。
そして、迷ったものは残す。捨てたものは戻りませんが、残したものは後からいつでも手放せます。判断がつかないときは、残す側に倒しておくほうが、後悔が少なくて済みます。
③ 片付けの進め方——一気にやらないこと
ここからは、実際の進め方です。
いちばん大事なコツを先に書きます。一気にやろうとしないこと。週末に家族総出で押しかけて、朝から晩まで動いて、結局リビングの半分も終わらずにへとへとになる——これがよくある展開です。
区切って、少しずつ
- 部屋ごとに区切る——今日は台所だけ。玄関だけ。全体を見ない
- さらに小さく区切る——台所の中でも「今日は流し台の下の引き出しだけ」。これくらい小さくて構いません
- 時間を区切る——「今日は2時間」と決めて、終わったらやめる。物が残っていてもやめる
- 簡単なところから——判断に迷わない場所から始めると、勢いがつきます。台所の消耗品、洗面所、古い雑誌など
- 思い出の品は後回し——写真、手紙、アルバム。ここから始めると、必ず手が止まります。最後に回すのが正解です
「簡単なところから」というのは、心の負担が軽い場所から、という意味でもあります。賞味期限が切れた食品、破れた雑巾、10年前のカタログ。こういうものは、誰の思い出も傷つけずに減らせます。まずそこから始めると、家の中に隙間ができて、次に進みやすくなります。
「残す・迷う・手放す」の3つに分ける
物を手に取ったら、その場で3つのどれかに入れます。2つではなく3つにするのが大事なところです。
| 分類 | 入れるもの/扱い方 |
|---|---|
| 残す | 本人が残したいと言ったもの、家族が引き取るもの、大事な書類・貴重品。誰が持っているかを記録しておくと、後で探さずに済みます |
| 迷う (保留の箱) |
この箱があるかどうかで、作業の進み方がまったく変わります。判断に迷ったら、考え込まずにここへ。日を改めて見直すと、不思議と決められることが多いです |
| 手放す | 処分するもの、譲るもの、売るもの。この中でさらに「ごみとして出す/リサイクル/買取に出す」に分かれます |
迷ったら3秒で「迷う箱」に入れる。これだけで、作業の速さがまったく変わります。
そして箱がいっぱいになったら、日を改めて開けてみてください。時間が経つと、「なぜこれを迷ったんだろう」と思えることが多いのです。逆に、何度見ても手放せないものは、それが本当に大事なものだということです。残しましょう。
箱には日付と、どの部屋から出てきたかを書いておくと、後で探すときに役立ちます。
用意しておくと楽なもの
- 段ボール箱と、油性ペン——箱には必ず中身と部屋名を書く
- ごみ袋(自治体の指定袋があればそれ)——分別ごとに色や場所を分けておく
- 軍手・マスク・スリッパ——長く閉め切った家はほこりがすごいです。マスクは必ず
- ガムテープ、ひも、はさみ・カッター
- 懐中電灯——押し入れの奥、天井裏、床下。電気が止まっている場合も
- スマートフォン——写真を撮る、記録する、その場で調べる
- 飲み物と、休憩できる椅子——ほんとうに大事です
- 書類をまとめる封筒やファイル——④で説明する大事な書類を、その場でまとめるため
高いところの物は、無理に取らない。脚立を使うなら、必ず誰かに支えてもらってください。上から重い物が落ちてくることもあります。
重い物は一人で持たない。箪笥や本を詰めた箱は、想像より重いです。腰を痛めると、その後の生活に響きます。
換気をする。閉め切った家はほこりとカビが溜まっています。窓を開けて、マスクをして。
暑い時期・寒い時期は特に注意。電気やエアコンが止まっている家での作業は、熱中症の危険があります。真夏の作業は短時間にして、こまめに休んでください。
古い家は、床が抜けることもあります。傷んでいそうな場所は無理に踏み込まないでください。
④ 絶対に捨ててはいけないもの【チェックリスト】
ここは、この記事でいちばん実用的な部分かもしれません。
片付けの途中で、書類の束が出てきます。古いチラシに紛れて大事なものが混じっていることがあり、まとめて捨ててしまって、あとで大変なことになる——これが本当によくある失敗です。
紙類は、その場で捨てないでください。「大事そうな紙を入れる箱」を一つ作って、迷ったら全部そこに入れる。落ち着いてから、まとめて確認するのがいちばん確実です。
お金に関わるもの
- 預貯金の通帳・キャッシュカード——使っていない口座のものも。口座があること自体が分からなくなります
- 印鑑(とくに実印)・印鑑登録証——どれが実印か分からなくなるので、印鑑はまとめて全部残す
- 保険証券——生命保険、医療保険、火災保険、地震保険、共済。古い保険が生きていることがあります
- 株式・投資信託・国債などの書類——証券会社からの通知、取引報告書
- 年金手帳・年金証書・年金に関する通知
- クレジットカード、その明細——解約の手続きに必要です
- 借入・ローンの契約書、返済の明細——借りているお金があるかどうかは、必ず確認が必要なことです
- 金融機関からの郵便物——どこと取引があるかの手がかりになります
- IDやパスワードを書いたメモ——ネット銀行やネット証券がある場合、これがないと分からなくなります
家・土地に関わるもの
- 登記済権利証・登記識別情報——いわゆる「権利証」。厳重に保管されていることが多いです
- 固定資産税の納税通知書——どの土地・建物を持っているかが分かります
- 売買契約書、建築の契約書、図面
- 賃貸借契約書——貸している土地・建物がある場合
- 墓地の使用許可証、永代供養の契約書——お墓のことは、後から探すのが大変です
身分・手続きに関わるもの
- マイナンバーカード・通知カード
- 運転免許証——返納の手続きにも必要です
- 健康保険証、介護保険被保険者証、負担割合証
- パスポート
- 戸籍・除籍の謄本、住民票——古いものも、家族関係を確かめるときに役立ちます
- 各種の契約書——電気・ガス・水道、通信、新聞、定期購入、レンタル、サブスクリプション。止め忘れると払い続けることになります
- 診察券、お薬手帳——どこにかかっていたかの記録になります
気持ちに関わるもの
- 写真・アルバム・ネガ・古い映像——これは絶対に、その場で捨てないでください。一度なくすと二度と戻りません。判断は最後に回してください
- 手紙、日記、はがき、記念のもの——家族の歴史そのものです
- 本人が作ったもの、集めていたもの——価値が分からないものほど、いったん残す
- 位牌、仏具、神棚、お守りなど——扱い方に決まりがあるものです。処分するときは、菩提寺や神社、専門の業者に相談を
- 賞状、免状、勤めていた記録——本人にとって大事なことがあります
量が多い場合は、書類の溶解処理を行っているサービスを使う方法もあります。宅配便で送ると、封を開けずに溶かしてくれる仕組みのものです。
パソコンやスマートフォンにも、写真や連絡先、口座の情報が入っています。データを消してから処分するか、扱いに詳しい人に相談してください。
⑤ 出てきて困りやすいもの——現金・貴金属・遺言書らしきもの
片付けをしていると、思いがけないものが出てきます。ここは対応を間違えると、あとで家族の間に大きなしこりを残します。
現金・タンス預金
箪笥の引き出し、着物の間、本の間、仏壇の中。現金が出てくることは、珍しくありません。
- 見つけた人が黙って持たない——ここが何より大事です。悪意がなくても、後から分かったときに信頼が壊れます
- その場で、他のきょうだいに連絡する——電話でもメッセージでも構いません。「◯円出てきた」と伝えるだけです
- 写真を撮って、記録を残す——場所と金額。あとで説明できる形にしておく
- 親がご存命なら、それは親のお金です——本人に伝えて、どうするか本人に決めてもらうのが原則です
- 亡くなったあとに出てきた場合——相続に関わることになります。扱いは相続人全員で話し合うべきことなので、勝手に分けたり使ったりしないでください。税金の扱いも含めて、税理士・弁護士などの専門家にご相談ください
貴金属・骨董品・価値がありそうなもの
指輪、時計、着物、掛け軸、切手やコイン、古い食器。価値が分からないものは、その場で判断しないでください。
「たぶん大したものじゃない」と思って処分したものが実は価値のあるものだった、という話も、逆に「価値があると思って保管し続けたが実際はそうでもなかった」という話も、どちらもよくあります。分からないものは、いったん残す。これが原則です。
- 写真を撮って、きょうだいに共有する——「こういうものが出てきた」と伝えるだけで、後々の誤解を防げます
- 売る・分けるは、勝手に決めない——親がご存命なら親のもの、亡くなっていれば相続人みんなに関わるものです
- 買取に出す場合は、複数の店で見てもらう——一か所だけで決めない。金額に差が出ることがあります
- 買取をする業者には古物商の許可が必要です——中古品の売買を仕事として行う場合、古物営業法にもとづく古物商許可が必要とされています。買取もしてくれるという業者には、許可を持っているか確認できます
- 訪問での買取には、クーリング・オフの仕組みがあります——業者に自宅に来てもらって物を売る「訪問購入」は、特定商取引法の対象で、書面を受け取った日から一定期間内であれば契約を解除できる仕組みがあります。その場ですぐに引き渡さない、書面を必ずもらうことが身を守ることにつながります。詳しいことは消費生活センター(消費者ホットライン188)で確認できます
遺言書らしきものが出てきたとき
民法では、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人またはその代理人の立会いがなければ開封することができないと定められています(民法第1004条第3項)。また、遺言書の保管者は、相続の開始を知ったあと遅滞なく家庭裁判所に提出して「検認」を請求しなければならないとされています(同条第1項)。
これらに反して勝手に開けた場合、過料(行政上の制裁金)の定めがあります(民法第1005条)。開けたからといって遺言そのものが無効になるとは限りませんが、他の相続人から「改ざんしたのではないか」と疑われる原因になります。
なお、法務局の保管制度を利用している自筆証書遺言や、公正証書遺言については、扱いが異なります。また、うっかり開けてしまった場合の対応もあります。ここは制度が細かく分かれているところなので、見つけたらまず手を止めて、弁護士・司法書士などの専門家か、家庭裁判所にご相談ください。このサイトで個別の判断はお伝えできません。
古い保険証券、使っていない口座
何十年も前の保険証券が出てくることがあります。すでに効力がないものもあれば、まだ生きているものもあります。自己判断せず、証券に書かれた保険会社に問い合わせて確認してください。会社名が変わっている場合もありますが、その場合も調べれば分かります。
使っていない預金口座の通帳も同じです。残高があるかどうかは、金融機関で確認できます。手続きに必要な書類は状況によって変わるので、まずは電話で聞いてみるのが早いです。
⑥ 自分たちでやる場合の手順とごみの出し方
家族だけでやると決めた場合の、大まかな手順を整理します。
- 1. 家をどうするか、方針を家族で決める(①)——決まらないなら「今は決めない」と共有する
- 2. 親の希望を聞く(②)——残したいものを先に確保する
- 3. 貴重品・重要書類だけ先に回収する(④⑤)——ここだけは早めに。他は後でも構いません
- 4. 部屋ごと・引き出しごとに、3分類で仕分ける(③)
- 5. 手放すものを、出し方ごとに分ける——燃えるごみ/燃えないごみ/資源/粗大ごみ/家電リサイクル/買取・譲渡
- 6. 自治体のルールに沿って出す——粗大ごみは事前の申し込みが必要なことが多いです
- 7. 契約の解約・住所の手続き——電気・ガス・水道、通信、新聞、郵便物の転送など
- 8. 掃除・戸締まりの確認——空き家にする場合は⑨も確認してください
ごみの出し方は、自治体ごとに違います
ここは、はっきりお伝えしておきます。ごみの分別も、粗大ごみの申し込み方法も、料金も、市区町村ごとにまったく違います。自分の住んでいる市のやり方が、実家の市でも同じとは限りません。
実家のある市区町村のホームページで「ごみの出し方」「粗大ごみ」を調べるか、清掃担当の窓口に電話で聞くのがいちばん確実です。多くの自治体が、分別の仕方を調べられる冊子やアプリを用意しています。
| 出し方 | 内容・注意点 |
|---|---|
| 通常のごみ収集 | 燃えるごみ、燃えないごみ、資源(紙・びん・缶・ペットボトル)など。一度に大量に出すと収集してもらえないことがあります。何回かに分けて出すのが現実的です |
| 粗大ごみ | 家具、布団、自転車など。多くの自治体で事前の申し込み(電話やインターネット)と手数料が必要です。回収日が先になることもあるので、早めに申し込むこと。大きさの基準や料金は自治体ごとに違います |
| 自分でクリーンセンターに持ち込む | 自治体の処理施設に直接持ち込める場合があります。収集より安いことが多いですが、受付の日時、事前の予約、身分証明書、持ち込める品目の制限があります。車が必要です |
| 家電リサイクル法の対象品 | エアコン、テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機は、通常の粗大ごみとして出せません。買い替える店や購入した店に引き取ってもらう、指定の場所に持ち込むなど、決まった方法があります。リサイクル料金と収集運搬料金がかかります |
| パソコン | メーカーによる回収や、自治体が案内している回収の仕組みがあります。データを消してから出してください |
| 処理が難しいもの | 消火器、タイヤ、バッテリー、灯油やガソリン、農薬、ペンキ、ガスボンベ、金庫、ピアノなど。自治体では収集できないことが多く、専門の窓口が案内されています。市区町村に確認してください |
| まだ使えるもの | リサイクルショップ、フリマアプリ、地域の譲り合いの掲示板、福祉施設や団体への寄付など。「捨てる」以外の道があると、気持ちも楽になります |
ライター、スプレー缶、カセットボンベも同じです。使い切ってから、自治体の決めた方法で出してください。
古い家からは、こうしたものが大量に出てくることがあります。面倒でも、分けて出してください。出し方は市区町村のホームページに必ず書かれています。
電気・ガス・水道(空き家にする場合、水道は凍結のこともあるので止め方を確認)/固定電話・インターネット・携帯電話/新聞・牛乳・定期購入・サブスクリプション/NHKの受信契約/ケーブルテレビ、警備会社/クレジットカード/新聞や郵便物の転送手続き。
郵便物の転送は、とくに大事です。実家に届く郵便物の中に、大事な通知が混ざっていることがあります。郵便局で転送の手続きができます。
なお、本人がご存命かどうかによって、手続きに必要な書類や、そもそも誰が手続きできるかが変わります。各社に電話して確認してください。
⑦ 生前整理・遺品整理・不用品回収は何が違うのか
業者を探し始めると、いろいろな言葉が出てきて混乱します。まず言葉の整理からしましょう。
| 言葉 | どういうものか |
|---|---|
| 生前整理 | ご本人が元気なうちに、本人(と家族)の意思で持ち物を整理すること。親が施設に入ったあとの実家の片付けは、多くの場合ここに当たります。本人の希望を聞きながら進められるのが最大の利点です。業者に頼む場合は「生前整理」「お片付けサービス」といった名前で扱われます |
| 遺品整理 | 亡くなった方の持ち物を整理すること。物の整理だけでなく、相続に関わる書類の扱いや、思い出の品の扱い、供養など、気持ちの面も含めた作業になります。家族の心の負担が大きいのが特徴です |
| 不用品回収 | 不要になった物を運び出して処分すること。目的は「処分」です。仕分けや書類の確認までは基本的に含まれません。「もう仕分けは終わっていて、運び出すだけ」という段階に向いています |
| 特殊清掃 | お部屋の状態によって、通常の清掃では対応できない場合に行われる専門的な作業です。必要な場合は、その旨を伝えて対応できる業者を探すことになります |
- 親がご存命で、何を残すかから一緒に考えたい → 生前整理の相談ができるところ
- 仕分けは自分たちでやった。運び出しと処分だけ頼みたい → 不用品回収
- 亡くなったあとで、書類も含めて整理が必要 → 遺品整理
- 量が多すぎて、何から手をつけるかも分からない → まずは見積もりに来てもらって、相談するところから
自分たちでやるか、頼むか
| 自分たちでやる | |
|---|---|
| 良い点 | 費用を抑えられる。一つひとつを自分の目で確認できるので、大事なものを見落としにくい。家族で思い出を振り返る時間になることもある |
| 大変な点 | 時間と体力がいる。何度も通う交通費がかかる。ごみの出し方を調べて、何回にも分けて出す必要がある。重い物の運び出しが難しい。気持ちの負担が大きい |
| 業者に頼む | |
|---|---|
| 良い点 | 短時間で終わる(一日で終わることも)。重い物、大量の物も任せられる。分別や処分の手続きを引き受けてもらえる。遠方に住んでいても進められる |
| 気をつける点 | 費用がかかる。業者選びに注意が必要(⑧)。急いで進むので、大事なものを一緒に処分してしまう可能性がある。貴重品と書類は、必ず先に自分たちで確保しておいてください |
大事なもの・思い出のものだけ自分たちで仕分けて、残りの運び出しと処分を頼む。この組み合わせが、いちばん無理がないと思います。
費用も抑えられますし、何より「大事なものを間違えて処分してしまう」という一番こわいことを防げます。
業者に頼む場合でも、「この部屋のこの箱には触らないでください」「作業中に書類が出てきたら、捨てずに分けておいてください」と最初に伝えておくと安心です。
⑧ 業者に頼むときに確認したいこと
ここは、丁寧に書きます。この分野は、消費生活センターへの相談が多い分野だからです。
国民生活センターは、不用品回収サービスについて、市区町村から一般廃棄物処理業の許可を受けずに違法に回収を行う事業者に注意するよう呼びかけています。相談件数は増えており、料金や作業内容をめぐるトラブルの事例が公表されています。
ただ、誠実に仕事をしている業者もたくさんあります。大事なのは「悪い業者を見抜く」ことよりも、「確認すべきことを、こちらから確認する」ことです。きちんとした業者ほど、聞かれたことにきちんと答えてくれます。
許可のこと——ここがいちばん大事です
- 一般廃棄物収集運搬業の許可——ご家庭から出る廃棄物を集めて運ぶには、市区町村の一般廃棄物処理業の許可、または市区町村からの委託が必要とされています。環境省や多くの自治体が、「無許可の回収業者を利用しないでください」と繰り返し呼びかけています。
ここで大事な点:産業廃棄物の許可や古物商の許可では、家庭のごみを回収することはできません。「許可を持っています」と言われたら、何の許可かを確認してください - 許可を持つ業者と提携しているか——一般廃棄物の許可は新規に出されることが少なく、取得が難しいとされています。そのため、許可を持つ業者と提携して処分を行う形をとっている会社も多くあります。それ自体は問題のあることではないので、「処分はどこがどういう形で行うのですか」と聞いてみてください
- 古物商許可——買取もしてもらう場合。中古品の売買を業として行うには、古物営業法にもとづく許可が必要とされています
- 運送に関する許可——家財を別の場所へ運んでもらう場合は、貨物自動車運送事業の許可が関わってきます
不法投棄——回収された物が、山林や路上に捨てられていた例が報告されています。
不適切な処理による環境への影響——家電などが適切な処理をされずに解体され、金属だけ取り出されるといった例が報告されています。
料金のトラブル——「無料回収」とうたっておきながら、積み込んだあとに高額な料金を請求される、事前の説明と違う金額を請求される、といった相談が寄せられています。
依頼した側にも影響が及ぶ可能性があります。だからこそ、自治体が「利用しないでください」と案内しているのです。
判断に迷うときは、実家のある市区町村の清掃・廃棄物の担当窓口に電話して、「この業者は許可を受けていますか」と聞くことができます。許可業者の一覧をホームページに載せている自治体も多くあります。
見積もりのこと
- 必ず複数の業者から取る——2〜3社が目安です。金額の幅と、説明の丁寧さが比べられます
- できるだけ実際に家を見てもらう(訪問見積もり)——電話やメールだけの概算は、当日に金額が変わる原因になります
- 書面でもらう——口頭だけにしない。金額の根拠(作業員の人数、トラックの台数、処分費など)が書かれているか
- 追加料金が発生する条件を、その場で聞く——「物が増えたら」「エレベーターがなかったら」「駐車場が遠かったら」。ここを先に聞いておくのが、いちばん効きます
- 作業の範囲を確認する——仕分けはどこまでやるのか。掃除は含まれるのか。庭や物置、車庫は含まれるのか
- 買取がある場合、その分がどう計算されるか——「買取分を差し引きます」と言われたら、何がいくらで買い取られたのかを書面で示してもらえるか確認
- キャンセルの条件——いつまでなら無料か
- 作業日と、かかる日数
会社そのものについて確認したいこと
- 会社の所在地・固定電話・代表者名が分かるか——携帯電話の番号だけ、住所が書かれていない、といった場合は、確認してみてください
- 契約書を交わしてくれるか——書面がないまま作業に入らない
- 作業中の破損に備えた保険に入っているか——家財や建物を傷つけてしまったときの備えです
- 貴重品が出てきたときにどうするか——「作業中に現金や書類が出てきたら、どう扱いますか」と聞いてみてください。きちんとした会社は、この質問に明確に答えます
- 質問に、はぐらかさずに答えてくれるか——ここが、いちばん分かりやすい判断材料かもしれません
- その場で契約を急がせないか——「今日決めてくれれば安くします」と急がされたら、いったん持ち帰って構いません。持ち帰る時間をくれる会社を選んでください
- 民間の資格——遺品整理士など、業界団体が認定する資格を持つスタッフがいる場合があります。資格があること自体が品質を保証するものではありませんが、目安の一つにはなります
「もう契約してしまったから」とあきらめる前に、まず相談してみてください。契約の方法によっては、一定期間内であれば契約を解除できる仕組み(クーリング・オフ)が使える場合があります。
無許可と思われる業者を見かけた場合は、市区町村の廃棄物担当の窓口に情報を伝えることもできます。
⑨ 空き家にする場合に知っておきたいこと
「当面はそのままにしておこう」——これは、十分にあり得る選択です。気持ちの整理がつかないうちに手放す必要はありません。
ただし、誰も住まない家には、住んでいる家とは違う手間と責任がついてきます。知らずに放っておくと、あとで困ることがあります。ここは大事なところなので、丁寧に整理します。
家は、人が住まないと傷みます
意外に思われるかもしれませんが、これは本当のことです。締め切ったままの家は、風が通らず湿気がこもり、カビが生え、木が傷み、においがつきます。水道を使わないと、排水管の水(封水)が蒸発して、下水のにおいが上がってきます。庭は、一年もすれば草が伸びます。
- 窓を開けて風を通す——各部屋、押し入れ、水回り。1〜2時間でも効果があります
- 水道を少し流す——排水口の水を補充して、においと虫を防ぐ。寒い地域では凍結対策(水抜き)が必要な場合があります
- 雨漏りや傷みがないか見る——天井のしみ、壁のひび、屋根や外壁の様子
- 庭の草木の手入れ——近隣への影響がいちばん出やすいのがここです。枝が隣に伸びる、落ち葉が飛ぶ、草が茂って虫が出る
- 郵便受けの確認——郵便物が溜まっていると、留守だと分かってしまいます。転送の手続きをしておくと安心です
- 戸締まりの確認——空き家は侵入や、放火のような被害の対象になりやすいと言われます
- 近所の方にひと声かけておく——「しばらく空き家になります。何かあったら連絡ください」と伝え、連絡先を渡しておく。これがいちばん効く見守りかもしれません
近隣に迷惑をかけてしまったとき
実際に誰がどこまで責任を負うかは、状況によって変わります。ここは法律の判断が必要なところなので、この記事で断定はしません。
お伝えしたいのは、「放っておいても誰にも迷惑をかけない」とは限らないということです。定期的に見に行く、傷みが見つかったら早めに手を入れる。それが結局、いちばん負担が軽い方法です。
すでに近隣とのことで困っている場合や、責任について不安がある場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。市区町村でも無料の法律相談を行っているところがあります。
火災保険のこと
火災保険では、人が住んでいる建物(住宅物件)と、住んでいない建物とで、扱いが変わることがあります。一般的な説明としては、住まいとして使われなくなった建物は「一般物件」として扱われる場合があり、保険料や補償の内容、加入できる保険の種類が変わることがあるとされています。
そして、契約の途中で建物の使われ方が変わった場合には、保険会社や代理店への連絡が必要とされています。連絡をしていないと、いざというときに困ることになりかねません。
扱いは保険会社や商品によって異なります。実家が空き家になる(なった)場合は、加入している保険会社・代理店に必ず連絡して確認してください。「空き家になるのですが、このままで大丈夫ですか」と聞けば教えてもらえます。
固定資産税と、空き家の制度
ここは、多くの方が気にされるところです。ただし税金の話は個別の事情と自治体の運用で変わるため、この記事では制度の考え方だけをお伝えします。金額や具体的な扱いは、必ず市区町村と専門家にご確認ください。
この法律には、状態によって次のような区分が置かれています。
「特定空家等」——法律では、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態、著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等、と定義されています(空家法第2条第2項)。
「管理不全空家等」——適切な管理が行われていないことにより、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態にあると認められる空家等、とされています。2023年の改正で新たに設けられた区分で、状態が悪くなりきる前の段階で自治体が関われるようにする趣旨のものと説明されています。
市区町村は、これらに該当すると判断した場合、所有者に対して助言・指導、それでも改善されない場合には勧告といった段階を踏んだ対応を行うことができるとされています。
そして、一般的な説明として、「特定空家等」または「管理不全空家等」として市区町村から勧告を受けた場合、その敷地はこの特例の対象から除かれることとされています。東京都主税局をはじめ、多くの自治体がこの内容を案内しています。
つまり、「空き家にしたら自動的に税金が上がる」わけではありません。助言・指導があり、それでも改善されない場合に勧告があり、その状態のまま賦課期日(1月1日)を迎えると、次の年度から特例の対象外になる、という段階を踏む仕組みとして説明されています。
ただし、実際の判断や運用、税額への影響は、お住まいの市区町村と個々の事情によって変わります。制度も見直されることがあります。この記事の説明だけで判断せず、必ず実家のある市区町村の担当窓口(税務課・空き家対策の担当課など)と、税理士などの専門家にご確認ください。
なお、空き家を売却したときの税金の特例など、税に関わる仕組みは他にもありますが、適用の条件が細かく定められており、当てはまるかどうかは個別の判断になります。ここでは触れません。税理士にご相談ください。
この章を読んで不安になった方もいるかもしれません。けれど、お伝えしたいのは「早く手放してください」ということではありません。
実際のところ、多くの空き家は定期的に見に行って、庭の手入れをして、傷みがあれば直す——それだけで問題なく維持されています。制度が想定しているのは、長く放置されて危険な状態になってしまった家のことです。
気持ちの整理がつくまで残しておく、という選択は、十分にあり得ます。大事なのは、放りっぱなしにしないことと、市区町村に相談できる窓口があると知っておくことです。多くの自治体に、空き家についての相談窓口が置かれています。
⑩ きょうだいとの進め方
実家の片付けが難しいのは、物が多いからだけではありません。関わる人が複数いるからです。
そして、この作業はきょうだいの間に、思わぬしこりを残すことがあります。物のことで揉めているように見えて、実はもっと深いところ——誰がどれだけ親のことをしてきたか、という気持ちが出てくるからです。
- 始める前に、方針を共有する——「いつ、どこを、どうするか」を、作業の前に全員に伝える。これだけで、後の「聞いてない」がずいぶん減ります
- 勝手に処分しない——とくに、価値のありそうなもの、思い出のもの、現金や貴金属。一人で判断しないでください
- 記録を残す——写真を撮る、リストにする。「何を、どうしたか」が分かる形にしておく。疑うためではなく、疑われないためです
- グループのメッセージで共有する——作業のたびに写真を送るだけで、離れているきょうだいも状況が分かります。「これ、要る人いる?」と聞くのにも便利です
- 来られない人を責めない/来られない人も、責められた気持ちにならない——遠方に住んでいる、仕事がある、体調が悪い。事情はそれぞれです
- 来られない人ができることを見つける——調べもの、電話での手続き、費用の分担、日程の調整。手を動かす以外の役割もあります
- 費用の分担を、先に話す——業者に頼む場合、あとから「聞いてない」となりやすいところです
「やった人」と「やらなかった人」
片付けを進めていると、どうしても偏りが出ます。近くに住んでいる人、時間が取れる人が、多くを引き受けることになります。
そして、引き受けた人は疲れ、引き受けなかった人は後ろめたさを抱えます。そのすれ違いが、ちょっとした一言で表に出ることがあります。
ここで大事なのは、やっている人が「大変だ」と言葉にしてよいということです。黙って抱え込んで、あとで爆発するより、途中で「正直しんどい」と言うほうが、ずっと健全です。
そして、やっていない側は「ありがとう」と言葉にすること。それだけで、ずいぶん違います。
きょうだいでの介護の分担については、介護をきょうだいでどう分担するかで、話し合いの進め方をくわしく整理しています。片付けの分担にも、同じ考え方が使えます。
親が亡くなったあとの場合は、相続の問題になります。誰が何を引き継ぐか、どう分けるか、手続きはどうするか——これは法律の問題であり、個別の事情によって結論がまったく変わります。
「たぶんこうだろう」で進めると、あとで大きな問題になることがあります。相続に関わることは、司法書士・弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。各地の弁護士会、司法書士会、法テラス(日本司法支援センター)で相談の案内を受けられます。市区町村でも無料の相談会を行っているところがあります。
このサイトでは、個別の判断をお伝えすることはできません。
⑪ 無理をしないこと
最後に、これを書かせてください。
実家の片付けは、体だけでなく、心を使う作業です。
親の字で書かれたメモが出てくる。子どものころの写真が出てくる。もう使わない台所道具に、母の手のあとが残っている。作業の手が止まって、しばらく動けなくなる——それは、弱いからではありません。当たり前のことです。
そして、片付けは同時に「終わりの準備」に触れる作業でもあります。親がもうこの家には戻らないかもしれない、ということを、物を通して確認していく時間です。それが軽い作業であるはずがありません。
- 全部を完璧にやらなくていい——押し入れの奥が半分残っていても、誰も困りません
- 期限を自分で作らない——「年内に終わらせる」と決めると、自分を追い込みます。急ぐ理由が本当にあるのか、いちど確かめてみてください
- 一人でやらない——誰かがいるだけで、判断が楽になります。手伝ってもらえなくても、電話しながらでも
- 疲れたらやめる——「あと少しだから」が、いちばん危ないです。けがも、そのときに起きます
- お金で解決してよい——業者に頼むのは、逃げではありません。時間と体力と心を守るための、正当な選択です
- 泣いてもいい——作業の途中で気持ちがあふれることがあります。無理に押さえ込まないでください
- やめてもいい——今日は無理だと思ったら、扉を閉めて帰ってください。家は逃げません
片付けを引き受ける方は、たいてい介護も引き受けています。介護をして、手続きをして、施設に通って、そのうえで実家の片付け。それは、想像以上の量です。
自分が疲れきっていることに、自分では気づきにくいものです。介護する家族の心のケア|共倒れしないためにに、疲れのサインと、休むための考え方をまとめています。よかったら、読んでみてください。
知らなかった親の一面が見つかる——若いころの写真、しまってあった手紙、集めていたもの。「こんなことをしていたんだ」と知ることがあります。
きょうだいで話す時間になる——普段は連絡を取らないきょうだいと、同じ場所で同じ物を見ながら話す時間は、なかなかありません。
本人に持っていけるものが見つかる——アルバム、小さな置物、手紙。施設に持っていくと、話のきっかけになります。
気持ちの区切りになる——時間はかかりますが、終わったあとに「やってよかった」と感じる方も多いのです。
だからこそ、急いで終わらせるより、時間をかけていい作業なのだと思います。
📌 まとめ
- まず「家をどうするか」を決める。そのまま残す/売る/貸す/誰かが住む。ここが決まると、どこまで片付ければよいかが決まります。決められないなら「今は決めない」と家族で共有しておくだけで十分です
- 親の気持ちを置き去りにしない。勝手に捨てない、本人が大事にしているものを先に聞く、急かさない。「決定を伝える」のではなく「意見を聞く」形にすると、受け取り方が変わります
- 片付けは一気にやらない。部屋ごと・引き出しごとに小さく区切り、時間も区切る。思い出の品は最後に回す
- 仕分けは「残す・迷う・手放す」の3分類。「迷う箱」を作るのが、いちばんのコツです。迷ったら3秒で箱へ
- 紙類はその場で捨てない。通帳・印鑑・保険証券・年金手帳・権利証・各種の契約書・写真は、必ず残す。「大事そうな紙の箱」を一つ作ってください
- 現金や貴金属が出てきたら、一人で判断せず、その場できょうだいに共有し、記録を残す。親がご存命ならそれは親のものです
- 封のされた遺言書は、その場で開けない。民法では、封印のある遺言書は家庭裁判所で相続人等の立会いがなければ開封できないとされ、検認の請求も定められています(第1004条)。見つけたら手を止めて、専門家か家庭裁判所へ
- ごみの出し方・粗大ごみの申し込み・料金は市区町村ごとに違います。実家のある自治体のホームページか窓口で確認を。エアコン・テレビ・冷蔵庫・洗濯機は家電リサイクル法の対象で、別の手続きが必要です
- 電池・ライター・スプレー缶は火災のもと。面倒でも分けて出してください
- 業者に頼むなら、許可の確認がいちばん大事。家庭の廃棄物を回収するには市区町村の一般廃棄物処理業の許可(または委託)が必要とされ、産業廃棄物の許可や古物商の許可では回収できません。環境省や自治体が無許可業者への注意を呼びかけています
- 見積もりは複数社から・実際に見てもらって・書面で。追加料金が出る条件を先に聞く。貴重品と書類は、頼む前に自分たちで確保しておく
- 空き家にするなら、定期的な風通し・水・庭の手入れ・戸締まり・近所への一声。火災保険は扱いが変わることがあるので、保険会社に必ず連絡を
- 固定資産税の住宅用地の特例は、「特定空家等」「管理不全空家等」として勧告を受けた場合に対象から除かれるとされています(空家法。2023年12月施行の改正で「管理不全空家等」が新設)。ただし運用も税額も個別に異なるので、市区町村と税理士に必ず確認してください
- きょうだいとは、始める前に方針を共有し、勝手に処分せず、記録を残す。相続に関わることは司法書士・弁護士・税理士などの専門家へ
- 全部を完璧にやらなくていい。期限を自分で作らない、一人でやらない、疲れたらやめる。業者に頼むのは逃げではありません
実家の片付けは、物を減らす作業のように見えて、実は家族の時間を、もう一度たどり直す作業です。だから時間がかかるし、疲れるのです。
一日で終わらせようとしないでください。今日は台所の引き出しひとつ、それで十分です。扉を閉めて帰ってきた日があっても、それは失敗ではありません。また来られる日に、また少しだけ。その積み重ねで、必ず進みます。
そして、親御さんがまだお元気なら、ぜひ一緒に開けてみてください。「これ、何だっけ」「ああ、それはね」——その会話そのものが、あとから振り返ったときに、いちばん残るものかもしれません。
税金・相続・不動産・法律に関わることについては、この記事では一般的な制度の考え方をお伝えするにとどめており、個別の判断はしていません。結論は、それぞれの事情や自治体の運用によって変わります。
ごみの分別や粗大ごみの出し方、空き家についての相談窓口、業者の許可の有無などは、実家のある市区町村にご確認ください。
相続・登記・税金については司法書士・弁護士・税理士など、契約や料金のトラブルについては消費生活センター(消費者ホットライン188)、保険については加入している保険会社・代理店に、それぞれご相談ください。
また、制度は見直されることがあります。最新の内容は、必ず公的な窓口でご確認ください。
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法」関連情報——令和5年12月13日施行の改正法、「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」
- 空家等対策の推進に関する特別措置法——第2条第2項(特定空家等の定義)、第13条(管理不全空家等に対する指導・勧告)
- 東京都主税局ほか各自治体の公表資料——特定空家等・管理不全空家等に該当した場合の、固定資産税・都市計画税の住宅用地の特例の取扱いについて
- 環境省「廃棄物の処分に『無許可』の回収業者を利用しないでください!」——家庭の廃棄物の回収に必要な許可、無許可業者による不法投棄・不適正処理・料金トラブルの事例について
- 国民生活センター——「不用品回収サービスのトラブル—市区町村から一般廃棄物処理業の許可を受けず、違法に回収を行う事業者に注意!—」(2022年11月2日公表)、「遺品整理サービスでの契約トラブル」(2018年7月19日公表)
- 民法——第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)、第1004条(遺言書の検認・封印のある遺言書の開封)、第1005条(過料)
- 古物営業法——中古品の売買を業として行う場合の古物商許可について
- 特定商取引法——訪問購入(業者が自宅を訪問して物品を買い取る取引)に関する規定について
- 各市区町村の公表資料——ごみの分別、粗大ごみの申し込み方法と手数料、家電リサイクル法対象品目の出し方、無許可回収業者への注意喚起、空き家相談窓口について
- 各損害保険会社・関連団体の公表情報——空き家となった建物の火災保険の取扱いと、契約内容の変更時の連絡について